ニューヨークで鑑賞する新しい日本美術。「異形の楽園」展。
ニューヨークで鑑賞する新しい日本美術。「異形の楽園」展。登載。(Oct 29, 2014)
ニューヨークで鑑賞する新しい日本美術。「異形の楽園」展。同時代に生きるアーティストの作品を鑑賞することは、自分の生きている世界について新たな視点を与えてくれることのような気がします。日本美術というカテゴリーは、そのテーマやモチーフ、歴史背景などから日本人であっても、逆に馴染みが薄い人も多いかもしれません。今月ニューヨークのジャパン・ソサエティーで始まった展覧会は日本美術に対する既成概念をいい意味で覆してくれました。
今回の企画「異形の楽園:池田学、天明屋尚、チームラボ」は1960年代後半以降に生まれたアーティストたちの作品を展示しています。ギャラリー館長の手塚美和子氏によれば「この3作家は、ペン、ペイント、さらにはソフトウェア等、それぞれが違うツールを使いながら、自分達の良さを最大限に引き出し、見るものを異次元の幻想的な世界へと導きます」と説明しています。
展覧会場はまず、池田学が製作した12点の作品に迎えられます。入口で配布された虫眼鏡で拡大して見なくてはならないほどに細密に描かれた作品の数々。
ハイライトは2008年に製作された「予兆」という作品です。4枚のパネルによって構成された大きな波をモチーフとしたもので、高層ビルや車、人などを巻きみながらうねりをあげるその様子は3.11の大津波を連想させる、というので震災後は展示が自粛されていたとか。今回は日本国外での初公開、さらに震災後初の一般公開となるそうです。
1点を完成させるまでには何年もの時間を要するそうで、全体の下絵を描いてから仕上げるのでなく、一部分ずつ描き込みながら、パーツを広げていくという方法をとっているのだそうです。
次のルームはチームラボによる展示です。彼らは2001年に設立されたグループで、日本のスティーブ・ジョブスとも称される猪子寿之のもと、アーティストやプログラムエンジニア、建築家、数学者、アニメーターなど多彩なクリエーター300人以上による大所帯です。日本の古典美術をテーマにしたデジタルアートを製作し、最近ではニューヨークのペースギャラリーでも展覧会を開催しました。
今回は江戸時代の奇想画家として知られる伊藤若冲による「鳥獣花木図屏風」をリソースとした大きなモニターの作品などを展示しています。8枚のパネルにはカラフルな花園に象や鳥など動物たちが映っており、鑑賞者が近づくと画面が反応する、というインタラクティブな作品となっています。ほか、今回の展覧会のために製作された「Flowers and People―Gold and Dark」という作品は部屋全体にフローラルパターンが投影されており、壁や床に触れることによって開花したり、散ったりといった植物の一生と対話できるような作品となっています。
そして展覧会最後は天明屋尚による初の大型インスタレーション「韻」が設置されています。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなどルネッサンス時代の巨匠たちが描いたバトルシーンにも影響を受けたというこの作品は1対になった2枚の絵と、真っ赤な砂による枯山水の庭で構成されています。ミラーイメージのように反転した状態の絵は、実はどちらかがコピー(デジタルプリント)。鑑賞者の目利きぶりを試される、かのような作品でもあります。アーティストいわく現代の“和魂洋才”的手法によって製作されたこの作品、全員全く同じ風貌の兵士たちはふんどし姿に艶やかな黒髪に滑らかな肌が特徴。ある意味で肉体のリアリティがなく、フィギュアが描かれているようにも感じました。
制作方法もメディアも、そしてコンセプトも、ほんとうに三種三様の作品。でもどれも日本美術の“現在”、そして私たちの住む世界の今を象徴しているといっていいでしょう。ニューヨークで鑑賞する新しい日本美術。今、お薦めの展覧会です。
Garden of Unearthy Delights: Works by Ikeda, Tenmyouya & teamLab
異形の楽園:池田学、天明屋尚、チームラボ (2015年1月11日まで)
Japan Society / 333 East 47th St. New York
Tel: 212-832-1155
www.japansociety.org